【2013年 03月 08日】
「お気に入りのシャンソンを聴きながら お洒落にカジュアル・フレンチ」4 渡邊みき

第4回:”Les parapluies de Cherbourg” & Cuisine de la Normandie
               『シェルブールの雨傘』&ノルマンディー地方の料理

           「海の幸とカマンベールチーズのキッシュ」
               「林檎のカトル・カール」

 

今回のテーマは『シェルブールの雨傘』。舞台はノルマンディーの港町シェルブール。シャンソンでは汽車に乗って戦地へと向かう恋人のギーを見送る場面、ひとり残された若い娘ジュヌヴィエーヴの哀しみで張り裂けそうな胸のうちが歌われます。「貴方なしには生きられない 貴方を生涯待ち続けるわ お願い戻ってきて 貴方のために生きたいの」歌いながら踊りながらリズミカルにストーリーが展開するジャック・ドゥミー監督、カトリーヌ・ドゥヌーヴ主演のミュージカル映画ですが、第1幕「出発」の別れのシーン、そして第3幕「帰還」それぞれ別の人生を歩み始めた二人が再会するクライマックスのシーンで流れるこの旋律は、感動的で、しっとりと美しく、目頭が熱くなります。今回はミシェル・ルグランの音楽に酔いしれながら、この映画の舞台となったフランス北西部ノルマンディー地方のカジュアル・フレンチをご紹介したいと思います。

さて、ノルマンディー地方の料理というと、バターやフレッシュクリームなどの乳製品をふんだんに使う点が特徴です。セーヌ川の下流域に位置した緑の牧草地が広がる田園地帯で、日本でもお馴染みのカマンベールチーズの故郷でもあります。今回は、英仏海峡に面した港町シェルブールにちなんで、エビ・帆立などの海の幸を使い、カマンベールチーズのコクをプラスした味わい深いキッシュに仕立ててみました。キッシュは冷凍のパイ生地を使い短時間で仕上げることも出来ますが、ひと手間掛けて、是非サックリとした手作りの生地の美味しさをお楽しみください。

ボリュームたっぷりのキッシュが焼き上がったら、シンプルな野菜サラダを添え、表面をカリッと焼いたバゲットと、そして名産のりんごの発泡酒シードルを用意して・・・さあ、ゆったりとソファに腰を下ろし、家族と友人とお待ちかねの映画鑑賞、そしてお腹も満足、幸せのひとときです。映画が終わったら、デザートとカフェで今度は楽しい語らいの時間。フランス流に食後酒などいかがでしょう。お勧めは、もちろん、カルヴァドス(りんごの蒸留酒)。時の経つのも忘れて、つい夜更ししてしまいそうです。デザートにはシナモン風味のりんごのコンポートを添えて焼いたパウンドケーキ、フランス語ではカトルカール(Quatre-quarts:4分の4)と表現しますが、卵・小麦粉・砂糖・バター、これら4種類の材料を同量使ったシンプルで美味しいケーキをご紹介致します。サクッと切り分けて ”Servez-vous!”  
どうぞ好きなだけお召し上がりください!

■「海の幸とカマンベールチーズのキッシュ」

【 材料 Ingrédients 】φ18㎝のタルト型 1台分

〈生地:パート・ブリゼ(練込み生地)〉小麦粉200g / 無塩バター100g / 卵黄1個分 / 塩 3g /
グラニュー糖 3g / 水 小さじ1

〈アパレイユ(卵液)〉卵3個 / 生クリーム(乳脂肪35%)200cc / 塩・こしょう 適量

〈ガルニチュール(具材)〉エビ(ボイル)100g / ベビー帆立(ボイル)100g /
カマンベールチーズ100g / パセリ(みじん切り) 適量 
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【 作り方 Recette】
〈生地〉
①バターを室温に戻し、小麦粉・塩・グラニュー糖を合わせてふるっておく。
②大き目のボールに①のバターと粉を入れ、指先でほぐすように混ぜ合わせる。
③卵黄と水を②に加え、ざっくりと混ぜ合わせ、生地をひとまとめにしてラップに包み、冷蔵庫で1~2時間休ませる。
④③の生地をめん棒で3mm程度の厚さにのばし、型よりも10cm程大きな円形にし、生地を型の上に置く。
⑤型から少しはみ出るくらいにゆとりを持たせて生地を敷き、めん棒を型の上に転がして、余分な生地を取り除く。
⑥フォークで底に空気抜きの穴をあけ、クッキングシートを生地の上に敷き、その中に金属の重しを入れて180℃のオーブンで約20分、から焼きにする。

〈アパレイユ&ガルニチュール〉
①ボールに全卵、生クリーム、塩・こしょうを入れ、泡だて器でよくかき混ぜる。
②から焼きした生地にエビ・帆立・カマンベールチーズを均等に並べ、その上から①のアパレイユを全体的に流し入れ、パセリをまぶす。
③180℃のオーブンで約20分焼く。

■「林檎のカトル・カール」

【 材料 Ingrédients 】φ21㎝のケーキ型 1台分

〈林檎のコンポート〉
りんご2個(お勧めは紅玉)/ グラニュー糖 大さじ3 /
白ワイン300cc / シナモンスティック 1本

〈ケーキ生地〉
卵(Mサイズ)2個 / グラニュー糖120g / 薄力粉120g /
無塩バター120g / ベーキングパウダー 小さじ1

〈仕上げ〉
カルヴァドス(りんごの蒸留酒)など リキュール 適量
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【 作り方 Recette】

〈林檎のコンポート〉
①りんごの皮を剥き、芯を取り除き、4等分に切る。
②白ワイン、グラニュー糖、シナモンスティックを強火で煮立たせたところに①で準備したりんごを入れ、弱火で約15分煮る。
③冷めたら冷蔵庫で半日から一晩漬け込む。

〈カトルカール〉
①薄力粉とベーキングパウダーを合わせてふるっておく。
②室温に戻した全卵をハンドミキサーでときほぐし、グラニュー糖を加えてさらにしっかりと泡立てる。
③溶かしバターを②に加え、ゴムべらで混ぜ合わせ、最後に①を加え、さっくりと大きく混ぜる。
④クッキングシートを敷いた型に③の生地を流し入れ、スライスしたりんごのコンポートを生地の上に並べ、予め温めておいたオーブンで約40分(180℃)焼く。
⑤焼き上がったら型から外し、刷毛でカルバドス(りんごの蒸留酒)などの洋酒をたっぷりと塗る。

傘屋を営むエムリー夫人の娘ジュヌヴィエーヴと自動車修理工のギーの若きふたりの悲恋物語『シェルブールの雨傘』を初めて鑑賞したのは女子大生の頃でした。アルジェリア戦地へと送られた愛するギーからの便りは途絶え、母エムリー夫人は多額の負債を抱え、お腹の中にはギーとの子が・・・そんな絶望の中で母を救ってくれた宝石商カサールからの熱心なプロポーズ、悩み抜いた末に彼のもとに嫁ぐ決心をし、かつての恋人であり我が子の父であるギーとは別々の人生を歩むことに・・・スクリーンの中のジュヌヴィエーヴと同年代であった当時の私は、さすがは愛の国フランスの恋愛! 感動と驚きを覚えました。人生においては喜びと哀しみは表裏一体、ひとは皆それぞれ何かを背負って生きていく運命なのでしょう。「愛とは何か」「人生とは何か」かつて愛し合った二人が偶然に再会し、雪の中で交わす短い会話、その言葉のひとつひとつに込められる重みを、この映画を観る度により深く感じます。

ポール・ヴェルレーヌの詩に「巷に雨の降るごとく われの心に涙ふる」”Il pleure dans mon coeur  Comme il pleut sur la ville”  とありますが、動詞「雨が降る(pleuvoir)」と「泣く(pleurer)」は
音の響きがよく似ています。雨の多いノルマンディー地方で「傘」は必需品。エムリー夫人の店の色鮮やかな傘をさせば、心は晴れて憂鬱な雨も大地を潤す恵みの雨となり、前向きな気持ちになれそうです。クライマックスのシーンでは雨は雪へと変わり、あらゆる喜び、哀しみが夜の闇の中でひとつになり、真っ白な世界に包みこまれるイメージ、人生は運命的な出逢いと別れ、笑顔と涙の繰り返し。フランス流に言えば  “Après la pluie, le beau temps” 雨のあとは良い天気、そして “C’est la vie ! ” それが人生!でしょうか。

  運命的な出逢いと別れ『シェルブールの雨傘』を聴きながら、
   ノルマンディーの家庭料理で素敵なひとときをお過ごしください! 
                   BON APPETIT  ボナペティ!

                   渡邊みき Miki WATANABE 

 フレンチ・レストラン&文化サロン「レスプリ・フランセ」経営。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、 フランス・グルノーブル大学に留学。フランスの生活文化に興味を持ち、音楽・料理の分野で翻訳者、通訳コーディネーターとして活動。フランス料理をダニエル・マルタン氏に師事し、2002年サロン式フレンチレストランを湘南にオープン。 2005年には南フランス・ヴァランスの3つ星レストランMAISON  PIC(メゾン・ピック)にて企業研修の機会を得る。レストラン業務に加え、コンサート・音楽サロン・フランス語講座などを企画運営、湘南における「料理と音楽」の文化交流の場となることを目指す。
幼少の頃からクラシック音楽を学び、シャンソンをパトリック・ヌジェ氏に師事。現在、レストラン経営と平行してシャンソンやフレンチ・ポップスを原語で歌う活動をしている。

    
レスプリ・フランセ 神奈川県藤沢市鵠沼海岸7-7-11 
       Tel:0466-34-3299  Fax:0466-34-3298  E-mail:info@fr-jp.net 
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