【2011年 10月 27日】
「日仏マナーのずれ」13 薮内宏 (イラスト 芦野宏)

食堂
 日本家屋では、部屋は多目的で、居間兼食堂兼寝室になることができます。欧米では、部屋は多目的ではなく、部屋は、使用目的に応じて異なるのは周知のことです。フランスに文化をもたらしたローマ人の貴族たちは、宴会場でソファでくつろぎながら食事を楽しんだそうですが、ローマ人に代わってフランスを含むガリア地方を支配したフランク族は活動的でしたので、当時の挿絵に描かれた様子から見て、ソファでは食事をしないで、背もたれのない硬い椅子に腰掛けていました。もっとも、ローマ人から受け継いだソファでくつろぎながら食事をする伝統が消滅したのではなく、フランスの宿屋では、部屋すなわち寝室のベッドで朝食を取ることが今でもできます。

 食堂の照明は日本ほど明るくありません。居間もそうで、黒い森の住人の子孫ドイツ人の室内はなおさらそうであるように聞いております。日本では、蛍光灯の普及率はきわめて高く、それも日の本の国らしく、明るい昼色光が主流になって、温かく温和な光の蛍光灯を入手するのが事実上不可能になってきました。

 食堂で椅子に座るのは、椅子の左側からであり、ウエイターが世話をしてくれるレストランでは、ウエイターは、お客が座りやすくするために椅子を食卓から引き離し、座る直前に腰を浮かし加減にしているとき、椅子を適当にテーブルの方に寄せてくれます。もちろん女性が先です。男性は、女性が座るまで立っています。座ったとき、胸とテーブルの縁との間が握りこぶし程度に離れていると食事をしやすいし、犬食いにならずに済みます。

 テーブルの下には居間や寝室と違って、じゅうたんが敷いてありません。中世には、王侯貴族の宴会で、骨つき肉の骨は、食堂にはべらせていた犬にあげていたからですが、今ではそうしません。しかし、パン粉が落ちることもあるので、食堂は板の間のままが一般的です。

 パーテイーで話に夢中になって食卓にひじをついた妻に対して、「ひじ!」と言ったら座が白けること請け合いです。冗談でうまく処理するか、適当な合図を送るに超したことはありません。これもマナーです。

 テーブルマナーは万国共通ではありません。外国に行って、食事に誘われると、思いがけない経験をするはずです。中国のように、ホストがお客に料理を次々によそったり、いろいろな名目でたびたび乾杯するところがあるかと思えば、食後に大きくげっぷするのが良いとされる所もあります。しかし、どの場合にも食事を楽しむことに変わりはありません。味を楽しみ、香りをめで、目で喜び、雰囲気を大事にします。食文化は人間にとって重要な文化です。

 昔のフランスでは、半分を食べて、召使のために残りをわざと残していたのですが、今では、日本料理の影響で一品の量は少なくなる代わりに、大皿での盛り合わせ、日本でいえば刺身の船盛りの豪華さからめいめいの皿での盛り付けの体裁に気をつけることがはやりだしています。確かに見栄えは食欲を増進させ、高級感も高まるからです。

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