【2011年 08月 25日】
「日仏マナーのずれ」12 薮内宏 (イラスト 芦野宏)

気遣い
 日本でなにかを差し上げるとき、「つまらないものですが」とか「お口に合わないかも知れませんが」と卑下して言います。欧米人から見て、つまらないものをわざわざくれるのはどうしてだろう、といぶかることになり、外国人に対して言うべきでない言葉です。

 それと同じく、家族を紹介するとき、「出来の悪い息子で」、とか「何もできない娘」と言うのも実におかしい。フランスの母親でしたら「自慢の息子で」、「家事を良く手伝ってくれる娘」とほめるところです。「粗茶ですが」もおかしく感じられます。

 日本に帰って、と言うより日本に来てまだ2~3年しかたたないころ、言葉はある程度分かるようになっていましたが、日本の風習は殆ど知りませんでした。したがって、「ゆっくりしていらっしゃい」とか「お茶づけでもご一緒に」と言われて、その言葉を文字通りに受けていました。下駄ならぬ靴の裏にお灸をすえられたり、逆さ箒に手拭いをかぶせられたかどうかは分かりませんが、恐らく困った子だと思われたでしょう。

 フランス人家庭で菓子を出されて、手を付けないでいると「嫌いですか」と聞かれます。日本の正月の「にらみ鯛」のように、お客が遠慮しなければならないことはありません。日本と違って、手を付けなかった菓子を包んで来訪者に差し上げることもあり得ません。確かにつつましさ、奥ゆかしさは美徳ですが、実を伴わない口先だけの言葉は相手を見て言うべきかと思います。

 大分以前のことですが、東京の渋谷駅の近くを歩いていたとき、韓半島の舞踊団の公演の宣伝をしていた女性に呼び止められて、ぜひ見に来てほしい、と熱心に誘われましたが、その気がなかったし、急いでいたので、つい「考えておきます」と言ったところ、「考えてくれますね」と言われて、どきっとしたことがあります。

 「寒くありませんか」などと気づかって言いますと、寒くないとき、日本人は「はい」と言うのに、フランス人は「いいえ」と答えます。「いいえ、寒くありません」と否定的な表現の略であるからです。否定疑問で婉曲になにかを言われたとき、注意して下さい。税関で「申告するものはありませんか」の場合もあります。


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