【2011年 04月 22日】
「日仏マナーのずれ」7 薮内宏 (イラスト 芦野宏)

ノック
 都会の住宅では、入り口の横に呼び鈴があるのは当たり前になりましたが、フランスの古い家の入り口の扉に金属製の小さい板と同じく金属製の環があって、環を板に打ちつけて来訪を知らせるようになっています。それに対して、日本の昔からの家やお寺は、玄関の戸を開けて、大声で「ごめんください」と叫ばなければならない家があります。こういう家では、入り口にかぎがかかっていません。

 欧米では、気候のためだけでなく、3匹の子豚の童話のように、安心して住めるために頑丈な家を建てる必要があります。日本の伝統的な家と対照的ですね。日本の場合には、夏の高温多湿を考えて通風に重点が置いてあり、隣近所との善隣関係で互いに守りあっていたから平気でしたが、今は安心できない時代になったのは悲しいことです。フランスでは、頑丈な家は地震対策のためではなく、身を守るためです。東部のアルプス山脈と南西部のピレネー山脈および西部のブルターニュ半島に地震地帯がありますが、パリにおりました3年余とリヨンでの8年間に地震を感じたことがありません。

 日本の都会ではコンクリートの建物が増えて、いわゆるマンションでは、手抜き工事の建物を除けば、安全性が高くなりました。ただ、「マンションに住んでいる」と言ったらびっくりされます。「マンション」は、フランス語では、「舞台の重なった背景用書き割り」を指すので住めるどころではなく、英語ですと、「邸に住んでいる」、「マンションハウス」でしたら「豪邸に住んでいる」と自慢していることになるからです。

 ふすまか障子を開ければ済む開けっぴろげな日本家屋とは違って、個人の部屋はその人のプライベートな空間ですので、許可なく入ることは遠慮しなければなりません。親しくても部屋に入る前にノックして、入って良いかどうかを確認する必要があります。日本式では、ノックは静かに2回するのが一般的でしょう。しかし、フランスでは、少し強めに少なくとも4~5回たたかないとよく聞こえません。部屋が大きく、壁が厚いので、ちょっと離れた位置にいると聞こえないからです。遠慮してたたく日本式ノックは陰険な印象を与えます。

 もともと個人主義に慣れていない日本人の子供が個室をあてがわれると、劇画のバーチャル空間を実在と混同したり、外で遊ばなくなったことで、友達と触れ合うことによって社会人になる下準備ができなくなるのは残念です。

 ノックには関係がないが、入口の上に馬蹄が取り付けてあることがあります。悪魔よけで、幸運をもたらす、と思われているからです。今ではクリスマスに限らず、室内にきれいな花をあしらったリースを飾ることがありますが、クリスマスには、ひいらぎかもみの木の葉の魔よけ用リ-スが入口にかけられ、その下では、誰とでもキッスができます。

 日本では、節分のいわしの頭とひいらぎの小枝で邪気を払い、豆まきをして、平穏無事な新年を送りたいですね。

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