【2015年 05月 18日】
『お気に入りのシャンソンを聴きながら お洒落にカジュアル・フレンチ⑧』
渡 邊 み き

渡辺みき2015、7月号上、左2上、左3上、左4

      第8回:”L’aquoiboniste” & La cuisine française aux saveurs anglaises
                           『無造作紳士』& イギリスの香りを楽しむフレンチ

「スモークサーモンのコロッケ ケッパーとディルのソース」
「ローストビーフ 黒胡椒のウイスキーソース」
 「オレンジのムース クレーム・アングレーズ添え」

今回のテーマは、セルジュ・ゲンズブール(Serge Gainsbourg) 作詞作曲、ロンドン出身の
ジェーン・バーキン(Jane Birkin)が歌う『無造作紳士(L’aquoiboniste)』。
フランス料理の手法を使い、彼女の祖国イギリスの香りをお楽しみ頂くコース料理をご紹介
したいと思います。

さて、ご存知の方も多いと思いますが、フランス人が「イギリス料理」を話題にするとき、
決まって飛び交うのは辛口のジョーク。かつて、シラク前大統領の「まずい料理を作る国民は
信頼できない」発言に英国各紙が猛反発したこともありましたし、「この世の天国=イギリス
の警官、この世の地獄=イギリスのコック」などというエスニック・ジョークも・・・。
《イギリスを愛すること人並み以上》でいらっしゃる林望氏の著書『イギリスはおいしい』
でも「まずは、まずい話からはじめよう」と始まります。しかし、読み進めていくと、
イギリスでは食事は質素でも「食材」に関しては比較的恵まれている、という話に展開して
いきます。なるほど、そう言われてみれば、童話に出てくる主人公たちも素材の美味しさを
知っていましたね。ピーターラビットはマックレガーさんの畑のレタスが大好物ですし、
クマのプーさんはハチミツの壺を大切そうに抱え、メアリーポピンズが休日の楽しみにして
いるのは、ラズベリージャムのケーキ。私自身もオックスフォードに滞在していたときに
出会った甘酸っぱい青りんごのパイ、ルバーブ(フキのような植物)のジャム、スモーク
サーモンのサンドイッチなど、素朴な味が忘れられません。そして、自然そのものの良さを
生かすという点では、イングリッシュ・ガーデンに通じるものがあるのではないでしょうか。
イギリス式庭園は自然の景観美を大切にした庭園であり、ベルサイユ宮殿に代表される
フランス式庭園の幾何学的な造形美を追求した様式とは大きく異なります。自然の恩恵を
受けて作り出される「庭」も「料理」も、その作風には、それぞれの国民性がみられるように
思います。

 

DSCN1699DSCN1780DSCN1783                                            〈刺繍家 栗田敦子氏『イングリッシュ・ガーデン』シリーズより〉

 

そこで今回は、イギリスの素朴でナチュラルなテイストを取り入れつつ、フランス料理の技法
を用い、彩り豊かな美味しい料理をご提案してみたいと思います。

スモークサーモンのコロッケ ケッパーとディルのソース

  中、左1 中、左2 中、左3

コロッケ

イギリスの国民食である「フィッシュ&チップス」からヒントを得て、「魚」と「じゃがいも」
を使った揚げ物をオードブルに仕立ててみました。日本の食卓で馴染みのある「コロッケ」、
「コロッケって、フレンチ?」とお思いなる方もあると思いますが、語源はフランス語の
「croquetteクロケット」なのです!「croquer(クロケ)」という動詞は、パリパリ、カリ
カリと音をたてて食べるという意味。フランスでは前菜やメインの付け合せとして頂きます。
コロッケが日本に紹介されたのは明治時代。長年に渡り食され、もはや日本のソウルフードと
言っても過言ではありません。今日はイギリスが世界に誇る食材「スモークサーモン」を
使ったリッチなコロッケをご紹介します。お供にはお決まりのケッパーとディルを添えて、
熱々の揚げたてコロッケをフレンチのマヨネーズソースと一緒にどうぞ。

材料【 Ingrédients 】4人分

じゃがいも 中サイズ4個 / スモークサーモン100g / にんにく 1/2片 / 玉ねぎ 1/2個 / 卵2個 /
パセリ(みじん切り)大さじ1杯分 / 白ワイン 大さじ2杯 / 塩・こしょう 適量 /
卵1個(衣用)/ 薄力粉 大さじ5杯 / パン粉 60g / サラダ油 適量

《マヨネーズソース》卵黄1個 / フランス産マスタード 小さじ1杯 / ワインヴィネガー
大さじ1杯 / オリーブオイル 200cc / ケッパー15粒程度 / ディル
(みじん切り) 小さじ1杯分 / 塩・こしょう 適量

作り方 【Recette】

①ゆで卵を作る(沸騰した湯に入れ、約10分)。
②じゃがいもは皮をよく洗う。鍋に水を入れ、塩を加え(1リットル当たり約10gの塩)、
    冷水からじゃがいもを火にかける。→塩を加えた水で野菜を茹でる手法を、フランス語では
    cuire à l’anglaise 「イギリス流の茹で方」と呼びます!
③にんにく、玉ねぎをフードカッターでみじん切りにし、オリーブオイルで炒める。
④パセリをみじん切りに、スモークサーモンは細切りに、ゆで卵は5mm角に刻んでおく。
   スモークサーモンと白ワインを耐熱皿に入れ、サランラップを掛け、電子レンジで加熱する
   (コロッケは油で揚げますが、中まで完全に火が通りにくいので、具材は予め熱処理して
    おきます)。
⑤じゃがいもが茹で上がったら、熱いうちに皮をむきマッシュポテトにする。バットに移し、冷ます。
⑥ボールに、じゃがいものマッシュ、炒めたにんにくと玉ねぎ、ゆで卵、スモークサーモン、
  パセリを加え、塩・こしょうで味を調えながら、よく混ぜ合わせる。
⑦溶き卵の中に振るった薄力粉を入れ、よく混ぜ合わせ、卵液を作る。
⑧丸く成形したコロッケの中身を⑦の溶き卵に浸してから、パン粉をまぶし、たっぷりの
   サラダ油できつね色になるまで揚げる。

《ケッパーとディルのマヨネーズソース》
①ボールに卵黄、マスタード、塩・こしょう適量を入れ、泡立て器でよく混ぜ合わせてから、
   ヴィネガーを加える。
②分離しないようにオリーブオイルを少量ずつ加え、しっかりと攪拌する。
③みじん切りにしたケッパーとディルを加えたら出来上がり。
 
ローストビーフ 黒胡椒ウイスキーソース

 下、左上  下、右上

下、下下、右下

イギリスの肉料理の定番はロースト。香辛料好きなイギリス人の作り出したウスターソースと、
スコットランドのウイスキーで香り付けしたグレイビーソース(肉汁をもとに作られるソース)
で頂くローストビーフのレシピーです。

材料【 Ingrédients 】4人分

牛モモ肉(ブロック)800g / 玉ねぎ 1/2個 / 粒マスタード 大さじ1杯 / 薄力粉 大さじ1杯 /
ウスターソース 大さじ1杯 / ビーフコンソメ 1個 / 水 200cc / ウイスキー 大さじ3杯 /
オリーブオイル 適量 / 黒こしょう(粒)適量 / 塩・こしょう 適量

作り方 【Recette】

①玉ねぎのみじん切りをオリーブオイルでソテーし、薄力粉と粒マスタードを加え、さらに
    ビーフコンソメと水200ccを加え、弱火で軽く煮込む。
②肉に塩・こしょうし、強火にかけたフライパンで両面に焼き色をつけたら、予め温めておいた
    170℃のオーブンで約15分焼く。
③一旦、オーブンから肉を取り出し、アルミ箔で包んで、さらに15分オーブンで焼く。
④肉をオーブンから取り出し、肉汁を①に加える。
⑤アルミ箔を外して、200℃で5分焼く。
⑥オーブンの火を消し、余熱でさらに10分焼く。
⑦肉汁を加えた⑥のソースにウスターソースを加え、半分くらいの量になるまで煮詰める。
⑧⑦に粗くつぶした黒こしょうとウイスキーを加え、アルコールを飛ばす程度に煮込む。

「オレンジのムース クレーム・アングレーズ添え」

オレンジ、左

オレンジ、左上オレンジ、右上

オレンジ、左下オレンジ、右下

イギリス人はマーマレード好き。スーパーや百貨店のジャム売り場には、シャンパン・マーマ
レード、ヴィンテージ・マーマレード、ウイスキー・マーマレードなど、様々な種類が並んで
いますし、童話の世界でも、クマのパディントンの好物はマーマレードサンド、そして機関車
トーマスのトップハム・ハット卿の朝食にもマーマレードジャムが登場します。無農薬のユズ
や甘夏でマーマレードを作って保存しておくと、トーストだけでなく色々なお菓子に応用でき
ますので、時間のあるときに仕込んでおくと便利ですが、今回は市販の英国産マーマレードを
使っています。そしてオレンジムースに添えるのは、「クレーム・アングレーズ(crème
anglaise)」、カスタードをリキッドにした感じのデザートクリームで、フランス料理では
「イギリス風のクリーム」と呼びます。

材料【 Ingrédients 】18cm型 1台分

《ジェノワーズ》全卵 3個 / グラニュー糖 100g / 薄力粉 100g / バター 20g / 牛乳 大さじ1杯

《オレンジムース》生クリーム(35%)100cc / レモン汁 1/2個分 / オレンジマーマレード
  150g / 粉ゼラチン 5g / 白ワイン 50cc / 卵白 1個

《オレンジのゼリー》オレンジジュース 150cc / 粉ゼラチン 3g / ハチミツ 大さじ2杯

《クレーム・アングレーズ》牛乳80cc / 卵黄1個 / グラニュー糖 20g

作り方 【Recette】

《ジェノワーズ》
①大きめの鍋にお湯を沸かす。鍋を火からおろし、ボールに入れた全卵(室温)とグラニュー糖
    を湯煎にかけながら、ハンドミキサーでよく混ぜ合わせる。
②バターと牛乳を鍋で温めておく。
③①を泡立て、もったりしてきたら、数回ふるった薄力粉を3回に分けて加え、ざっくりと
    混ぜる。
④③に②を少しずつ加え、なめらかな生地になったら、紙を敷いた型に流し入れる。
⑤180℃に温めたオーブンで、約20分焼く。
⑥焼き上がり、粗熱がとれてから3枚にスライスする。

《オレンジのムース&オレンジのゼリー》

①白ワインを火にかけ、アルコールを飛ばし、粗熱がとれたら粉ゼラチンを加え、ふやかしておく。
②①にマーマレードとレモン汁を加えておく。
③生クリームを7分立てにする。
④卵白をボールに入れ、しっかりしたメレンゲを作る。
⑤メレンゲの中に生クリームを混ぜ合わせたところに、②を少量ずつ加え、なめらかになるまで
    混ぜる。
⑥18cmのセルクルにスライスしたジェノワーズを1枚敷き、その上から⑤を静かに入れる。
⑦⑥を冷蔵庫で冷やし固める。固まったら、温めたオレンジジュースに、ハチミツ、粉ゼラチンを
    加え、ゼラチンが溶け、粗熱がとれたら、ムースの上から静かに流し入れ、再度冷蔵庫で冷やす。

《クレーム・アングレーズ》

①卵黄をハンドミキサーで白っぽくなるまでよく混ぜる。
②鍋に牛乳とグラニュー糖を入れ、一度沸騰させ、火からおろす。
③①に②を少量ずつ加え、よく混ぜたら再度火に掛ける。
④弱火でとろみが出るまで均一に混ぜ合わせる。
⑤④を火からおろし、熱いうちに濾す。粗熱が取れたら冷蔵庫で冷やす。

オレンジのムース、クレーム・アングレーズが冷えたら、飾り用にカットしたオレンジや
ハーブなどと一緒に盛り付ける。

 

伝説のカップル、セルジュ・ゲンズブールとジェーン・バーキン。離別後もバーキンへの楽曲
提供は続けられ、ゲンズブールがこの世を去った現在でもなお、バーキンは彼から贈られた歌
を歌い続けています。別々の人生を送ることになった二人でも、愛し合う気持ち、魂は永遠
なのでしょう。東日本大震災直後、多くの海外アーティストが来日をキャンセルする中、
バーキンが復興支援コンサートのために来日したことは大きな話題になりました。その後も
各国で東北支援を目的とした公演を行っています。ゲンズブールの音楽とバーキンの歌声は、
私たち日本人の心に寄り添ってくれているのですね。

ところで『無造作紳士』とは、どんな人物なのでしょうか?「aquoiboniste(アコワボニスト)」
というのは造語で、フランス語で「À quoi bon?(ア・コワ・ボン)」というと、「それが何に
なる?→何もならない、無駄なことだ」という意味になります。従ってこの『無造作紳士』は、
世の中に対して常に「À quoi bon? À quoi bon?」と言っているひと、モデルになったのは家族
ぐるみで親しかったフランソワーズ・アルディの夫、ジャック・デュトロンと言われています。
ゲンズブールの言葉遊びによる造語や独特の言い回しが随所にみられ、訳出に工夫が必要ですが、
『無造作紳士』に描かれている人物像をまとめてみましょう。

             『無造作紳士』プロフィール
            冗談好き(憂いをこめた) À quoi bon?「それが何になる?」 が口癖 
            調子はずれの冴えないギタリスト やたら理想主義者 どうでもいい主義者
           世間に無関心 頑固者 表面的には賛同しても内心ではÀ quoi bon? 
           目医者なんていらないと思っている(汚れた世界をみる必要などないから)

ちょっと変わったひと、でも独自の人生哲学を持った憎めないキャラクター。彼女を悲しげな
眼差しで見つめ、「好きなのは お前だけ 他の連中は 皆んなくだらないよ」と呟き、
ゲンズブールは歌を締めくくります。最後のフレーズは、きっとバーキンへのメッセージでも
あったのでしょう。

 

ジェーン・バーキンの歌声を聴きながら
イギリスの香りを楽しむカジュアルフレンチ、
素敵なひとときをお過ごしください!
BON APPETIT ボナペティ!

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渡邊みき Miki WATANABE

 フレンチ・レストラン&文化サロン「レスプリ・フランセ」経営。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、
フランス・グルノーブル大学に留学。フランスの生活文化に興味を持ち、音楽・料理の分野で翻訳者、
通訳コーディネーターとして活動。フランス料理をダニエル・マルタン氏に師事し、2002年サロン式
フレンチレストランを湘南にオープン。 2005年には南フランス・ヴァランスの3つ星レストラン
MAISON PIC(メゾン・ピック)にて企業研修の機会を得る。レストラン業務に加え、コンサート・
音楽サロン・フランス語講座などを企画運営、湘南における「料理と音楽」の文化交流の場となること
を目指す。幼少の頃からクラシック音楽を学び、シャンソンをパトリック・ヌジェ氏に師事。現在、
レストラン経営と並行してシャンソンやフレンチ・ポップスを原語で歌う活動をしている。

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レスプリ・フランセ 神奈川県藤沢市鵠沼海岸7-7-11 
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《ホームページ》http://www.fr-jp.net

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