【2012年 04月 09日】
「日仏マナーのずれ」16 薮内宏

食器
 日本料理の食器は楽しい。それに盛る食べ物との調和を楽しむことでおいしさが一段と高まります。繊細です。それに対して、洋食の器は豪華に盛るためにあります。したがって、日本料理店で食事をすると、ぼられたと思う外国人は少なくありません。いろいろな食べ物の風味を楽しみ、食べ終わると結構満腹になる日本料理の特徴を説明する必要があります。

 日本料理と違って、お皿を持ち上げません。小皿に盛ってあるサラダは持ち上げたら食べやすいでしょうが、この小皿も持ち上げません。残念です。持ち上げられるのは、お皿ではなく、受け皿付きの大き目のカップによそわれたときです。
お皿を持ち上げて食べるのはビュッフェスタイルのときだけです。

 茶道では、茶碗を裏返したりして鑑賞しますが、セーヴル焼きかリモージュ産かを確かめるために食器を裏返すことはしてはいけません。
 大分以前のことですが、元皇族の賀陽美智子さんのおかげで五島美術館で国宝の大井戸茶碗と曜変天目茶碗を手に持つことができました。大井戸茶碗は韓半島の農民のクリーム色の大ぶりのご飯茶碗で、高台は簡単な紐状の粘土で、下品でしたが、それを除けば、手に持った茶碗の感触は実にすばらしく、健康美にあふれた農村の若い娘のようでした。それに対して、中国産の曜変天目茶碗は暗い青色で、内側に透き通るような白い点が散りばめられていて、満天の星空を見るようで、本当に見事でした。中年の貴婦人の趣のある傑作でした。大井戸茶碗は手びねりの面白さは秀逸でしたが、フランス人でしたら寸分の隙のない曜変天目茶碗を選ぶに違いないが、同席した日本人は、異口同音に大井戸茶碗の方に強く引かれました。食器や庭園、花瓶に花を活ける方法にも同じ違いがあるように感じます。日本では、変化のおもむきを楽しみ、完成は行き止まりに感じられるからでしょうか。
 
 フランスに限らず、銀器が珍重されます。日本では、夏は高温多湿ですので、銀器は黒ずんできます。洋銀というさびにくく、外観が銀に似ていて錆びにくい洋金が好んで使用されるのは当然です。ヨーロッパで銀器がはやったのは、宴会で毒殺が行われることがあったので、毒に会えば黒ずむことで、王侯貴族は自分用の銀製のナイフとフォークを持参していたそうです。毒殺では、イタリアのボルジャ家がよく知られています。日本のように毒味役がいたかどうかは知りません。たぶんいなかったでしょう。落語の目黒のさんまでわかるように、日本の殿様たちは、冷めた料理を食べさせられて気の毒でした。

 フランスでは、古来より丸い大きな土鍋を暖炉の隅に置いて、弱火でゆっくり煮物をする習慣がありました。土鍋を暖炉の火の上ではなく、脇に置いていたのは、流れができて、全体が良く煮えるためだったからだそうです。裕福な家庭では、土鍋を数回使用しただけで、それを捨てて、新しいのと取り替えていた、と言われています。土鍋は不純物と塩分を吸収してくれるので喜ばれていたそうですが、金属製の鍋は、金属イオンで味が損なわれる、と言って嫌っていました。よい野菜で実際に塩抜きで煮たスープも、塩をちょっと加えただけで味が違ってしまいます。料理の味付けも、日本のおかずよりも塩味が薄い、

 食卓では、コップは、右側から順に取れるように置いてあります。コップのことは後述します。バターは数人用の容器に入っていれば、ナイフで一塊を突き刺して、小皿が用意してあれば、その皿に乗せます。後で必要があれば、また取ります。
 
 戦前の宴会では、デザートの果物は、食事をする人が自分で選んで、自分で皮をむかなければならなりませんでした。したがって果物をむいたりした後、片手づつ交互に指先をゆすぐためにフィンガーボールが出されていました。果物を食べるためのお皿に乗せたのを敷紙ごと左脇に置いてから果物を取りました。フィンガーボールの水には香りのよい香草が浮かべてあったりしました。ある晩餐会で、中東のある高官がフィンガーボールの水を飲んだことがありました。ホストもすかさずそうしたことを父から聞きました。お客に恥をかかせるのは招待した人の恥だからです。
 
 フランスでは、半熟卵を朝食に食べることがありますので、卵立ては必需品です。パンを細長く切って、殻の上を小さじで叩いて開けた穴からパンの端を入れて、塩を少し加えた卵の黄身を付けて食べ、それから小さじで残りを食べます。殻は壊します。悪魔が卵の壊れていない殻を手に入れたら、その卵を食べた人の魂を自由に操ることができる、という俗信があるからです。

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