アンシャンタン+

まえがき

外国人に接して、好意のつもりでしたことがその人を怒らせるときがあります。
サウジアラビアやエジプトのようなイスラム教国では、子供の頭をなでると、親はかんかんに怒りだします。頭は神聖だとみなされているので、イスラム教信奉者は、怒るのは当然でしょう。漫才で突っ込み役がぼけ役の頭を気軽にたたくのを見たら、イラン人やパキスタン人は仰天するでしょう。他国との風俗習慣を無視すると思いがけない誤解を生ずることがあります。
日本では、フランスの文化は割合よく知られていて、フランス料理を食べるときのテーブルマナーになじんでいる人は少なくないようです。それでも細かく観察すると、やはり気になる違いはいろいろあります。
フランスと他のヨーロッパやアメリカ諸国のマナーは大差がないので、私がなじんでおりますフランス方式と日本のマナーとの違いを思いつくままに書いてみます。
英米式とのちょっとした相違も、気がついたことは記すつもりです。 私は、外交官を父にもった昔の帰国子女の一人であり、帰国後、文化ショックをいやというほど経験しかした。2003年まで郵政大学校でフランス語を担当した後、翻訳業にいそしんでいる今日この頃です。私の体験が幾らかでもお役にたてましたらしあわせです。

あいさつ

あいさつは、日本では、暑さ寒さと天気が目まぐるしく変化しますので、「今日は冷えますね」とか「よく晴れて気持ちがいいですね」と気候と天候を話題にして共有する感情を大切にするのに対して、フランスなどでは「よく眠れましたか」、などと相手の身体の調子を聞く傾向が強い。

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日本では、親しみも兼ねての場合、「さん」や「ちゃん」、「君」を名前に付けて呼び、一般的に「さん」を名字につけるのに対して、フランスでは、名字には男性に対して「monsieur」、既婚婦人には「madame」、未婚女性には「mademoiselle」を名字の前に付けます。
しかし、日本と違って、子供の名前に「ムシウ」、「マドムアゼル」を付けません。「ムシウ・ジャン」のような表現は召使が身分の高い人の息子に呼びかけるときに使います。親しくなれば、おとな同士も名前だけで「ジャン」、「マリー」と呼び捨てにします。
しかし、日本と違って、名字の呼び捨てはしません。
例外は芸能人と政治家の名字ですが、本人に対してではなく、話題にする場合に限られます。学校の先生も学生を呼ぶとき、苗字の呼び捨てにします、 日本では、自社の社長に呼びかけるとき、「さん」を付けません。肩書が敬称の役をしてくれますが、フランスなどでは、「monsieur le directeur」のように「ムシウ」プラス定冠詞を付け加えます。
女性でしたら「madame la directrice」と言うとろです。人権では平等であっても、社会的区別ははっきりしています。留学生になれば、先生との接触でも、そのことを思い出して下さい。
日本では「先生」と言う呼び方は、かなりいろいろな職業の人に対して使用できて便利ですね。 日常のあいさつは簡単で、初対面でも、「こんにちは」に当たる「Bonjour」プラス「 Monsieur」などで済みます。社交の場合でしたら気品のある表現を使いますが、例えば成人女性は「Charmée」(魅惑されました)のように男性が使ったらおかしい表現があり、男性が女性に「Trés honoré」(とても光栄です)とか「Mes hommages」(私の尊敬の念を)のように女性が使えない表現もありますので、要注意です。あいさつの言葉で訳せない表現はいろいろあります。日本の初対面の「初めまして」や「どうぞよろしく」、別れるときの社交的な「ご機嫌よう」とか仕事場での「お疲れさま」に当たる表現は、フランス語にはありません。
フランス語にも「君」、「僕」式の砕けた「tutoyer」と言う砕けた表現があります。ごくわずかな例外を除いて、動詞が同じ発音になるので、この表現は子供向きです。もっとも、親しみを表する言い方でもあことで、若い人たちが好んで使っています。もっとも、社会人は、その言い回しをすれば軽く見られますので、家族や友達、こども相手の場合はともかく、お手伝いさん相手でも、「貴方」、「私」式の表現を使うようにお勧めします。

握手

今では外国人とあいさつを交わすとき、握手をするのが一般化しました。外国人と握手をするとき、日本女性は遠慮して、相手の手をふわっと軽く握るだけにしがちです。
ところがそうすれば、外国人は、日本女性が気持ち悪がっているか、自分を嫌っているからではないかと気にします。誤解されないためにも、しっかり握手する必要があります。なお、未成年の若い女性は、男性に対しても先に手を差しのべることをしません。akusyu日本では、握手するとき、男性が先に手を差し延べるのが普通のようですが、フランスなどでは、地位か年齢が離れている場合を除けば、女性が先に手をさしのべます。しかし、初対面のときには、女性は必ずしも手を差し延べるとは限りません。会釈する方が多いでしょう。そのとき、男性も返礼として会釈するだけです。あいさつの言葉はもちろん交わします。 パーティでは、相互に紹介されていない者同士が接触する初対面のとき、握手をしません。笑顔を浮かべて軽く会釈し合うだけで、あいさつの言葉も簡単です。
握手はもともと相手に対して敵意がないことを表すためのしぐさでした。しかし昔は必ずしもそうではなかったようで、今でもフランス人は、握手の直後に本能的に身体が付かない程度に相手から少し離れることがあります。 フランス人は、人と出会ったときと別れるときにいちいち握手します。会社に出社したときと帰宅するときもそうします。黙って幽霊のように消えることはありません。すっといなくなるのをフランス人は、「イギリス式に帰った」とひやかして言いますが、パーテイでホストとホステスがあいさつの応対でなななか空かないときにそうするからでしょう。いずれ礼状に簡単な詫びの一言を付け加えることになります。

キッス

アメリカ人男性がインド人女優にキッスしたことにヒンズー教徒インド人が憤激したニュースがありました。このようにキッスは世界的ではありません。戦前の日本では、外でキッスするのを目にすることは全くなかった。今でも、日本人は路上や公共の場所でキッスをするのはかなり稀でしょう。「男女七才にして席を同じゅうせず」の時代でなくなったのに。やはり人目が気になるなるからでしょうか。人前でキッスすれば、誰かさんと誰かさんの間柄はあやしい、と隣近所で評判になり、有名人でしたら週刊誌はかっこうの話題にしますね。もっとも、フランスでは、サルコジ大統領が離婚したはかりであるのに、早々とイタリア人女性と再婚しているのは驚くに当たらないことです。 欧米社会では、周知のように、路上でもキッスはごく一般的に行われています。ほほへのキッスが一般的です。額へのキッスもあります。子供に対する場合です。フランスでは、両ほほへのキッスは、親しみと歓迎の印です。
ホームスティで、日本人女子留学生にはその経験をした人は結構いるでしょう。強い歓迎の印です。キッスではないが、親しい男同士が抱き合って、相手の首に手を回して、背中を軽くたたいて友情の印を行動で示すのは珍しい事ではありません。男女間でも、特に親しい間柄でしたら男はそうします。日本人同士では恥ずかしくてそうできないでしょう。唇へのキッスは肉感的すぎるので、恋人専用です。首へのキッスもそうです。
言葉の上では「baiser」(キッスする)は肉感的ですので、「 embrasser」(ほうようする)と言うと誤解されずに済みます。ベニスでは、サンマルコ広場で6万人の集団キッスで元日になる真夜中に2008年の到来を祝いました。ベニス市のサイトには、2008年は愛の年になる、と書かれていたそうです。ニュースでは、見出しは「巨大な集団ベゼ」でしたが、集まった人たちの行為をやはり「ベゼ」ではなく、「アンブラセ」と記してありました。 フランス式の女性の右手の甲へのキッスは、女性が手の甲を上向きにする手の差し出し方でフランスの紳士にすぐ判ります。もっとも、この方式は、路上では行なわれません。日本でも、道路では、京都式の長いあいさつはおかしいし、深いお辞儀は人の行き来の妨げになるでしょう。
日本人がまねをするとおかしいですが、女性が片足を引いて、手でドレスを軽く広げるようにして膝を曲げておじぎをする、高貴な方に対する上品な挨拶法もあります。 自分の手にキッスして、離れている所にいる親しい人に向かってその手を勢いよく振る投げキッスもあります。

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