【2011年 11月 10日】
「日仏マナーのずれ」14 薮内宏 (イラスト 芦野宏)

レストラン
 飲食店に入るとき、日本では男性が先に入ります。実はフランスでも、女性と一緒では、やはり男性が先に入ります。用心のためです。キャバレーでは、尚更そうします。友人や知人を訪れる場合とは逆であることに留意して下さい。

 レストランでは、真ん中のテーブルは上客向きで、支配人は相手を見て、判断して案内します。日本の旅館と同じように履物を見てですので、服装だけりっぱにしても足元を見られます。

 高級料理店では、男女の場合、男性のメニューには値段が記載されていますが、女性のには書いていないのが渡されます。ところで、フランスでは、メニューは「カルト」(カード)といって、定食を「ムニュー」といいます。定食といっても、少なくとも肉料理か魚料理、そして少なくともデザートの中からそれぞれ一品を選びます。パンはお代わり自由です。東京でも、フランス人が経営し、シェフになっている店では、そうしている傾向が強い。

 注文するとき、日本では、一人が「カレー」と言えば、他の人たちは、「僕も」、「私も」と言うことになります。共同作業がきわめて重要であった稲作農業の国の人間としての習性がおのずと発揮されます。フランス人は、夫婦でも別のものを注文するのは珍しいことではありません。他の狩人の後についてばかり行ったりすれば、獲物を捕らえるのが難しい狩猟民族の習性を残しているからでしょう。

 日本では、主食と副食という言葉がありますが、フランスにはこの違いがありません。おかずが主なのか、パンがそうなのかは場合によります。日本料理でも、最後にご飯が出たりします。

 フランスでは、焼肉と言えば古くからオーブンで蒸し焼きにしたもので、ビフテキは大分後から取り入れられ、バーベキューは、北アフリカから入ってきた人たちの影響で、最近フランスでもはやり始めているそうです。しもふり肉はありません。

 フランスの三つ星レストランには往々にして不便な所にある店が少なくない。その多くは宿屋を兼業しているので、ゆっくり良い食事を堪能して休養するのに適しています。もっとも、さむらいのまつえいで産業戦士を自認する人には向いていないのは残念です。

 戦前のパーティーにはフルコースは珍しくなかったのですが、今では簡略化されています。戦前の普通の食事では、昼食では前菜(オードブル)、夕食はスープから始まりましたが、その習慣は崩れているようです。

 食前酒は食欲を増進させます。香りがよく、口当たりがいいので、飲みすぎないようにご用心。父の知り合いの日本人にも、にがよもぎで香りをつけたペルノーでしたかにはまって、よいよいになった人がいました。

 食前酒としてシャンペンを選ぶことがあります。華やかで乾杯に喜ばれるからですが、甘口のはそのすぐ後の料理の風味を損ないます。

 食前酒を兼ねて、日本人はレストランで、ビール、と言うところですが、フランスの高級料理店にはビールが置いていない店もあるはずです。ビールの風味は本格的なフランス料理に合うとは言いがたいからです。

 現在の正式のフルコースは、前菜から始まって、スープ、魚料理が次、それから肉料理(山羊、羊、牛など)、シャーベットのような口直し、鳥類(鶏、鴨、うずら、雉など)のロースト、サラダ、チーズ、プリンなどの軽いお菓子、コーヒーの順です。食後にブランデーのように度の強いアルコールを楽しむ人も多いでしょう。家庭では、子供には、カナール(あひる)と言って、ブランデーをちょっとしみ込ませた角砂糖を1箇あげることもします。

 今では食事が簡単になりました。三ツ星レストランのトロワグロで修行した人の話では、一品だけ、それもスープだけを注文して食べて帰る常連もいたそうです。肩肘を張っては食事を楽しむことはできません。食べたいものだけを注文すれば良いのです。

 コルシカ島でしたか、フルコースを注文したところ、コースの半分にも行かないうちにお腹がいっぱいになった私の知り合いの日本人がいました。田舎では、こういうことがあり得ます。地方では、他の客に給仕される料理の量が参考になる場合もあるでしょう。

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